腎移植の流れ
レシピエント(腎臓の提供を受ける方)
生体腎移植の適応
生体腎移植を受けるレシピエントの条件
腎移植は末期腎不全における合併症を改善すること、生活の質(QOL)を改善することを目的としています。
医学的な適応は次のような患者さんにあると考えています。
- 原則、生体ドナーと血縁または夫婦であること(6親等内の血族と3親等内の姻族)
- 現在活動している感染症がないこと
- 癌などの悪性腫瘍がないこと。または治癒し一定期間経過していること
- 過度な肥満がないこと(BMI:27kg/m2以下であることが望ましい)
- 心疾患・糖尿尿・高血圧・肝疾患などがある場合は、検討が必要
動脈硬化などの血管の症状が進行し、高度の心臓病(虚血性心疾患)がある場合では移植手術自体がうまく成功しないことが予想され、また癌などの悪性の病気で手術による根治不可能な場合、現在活動している感染症がある場合には、さらに病態の悪化が予想されるため、移植手術が受けられません。年齢については、現段階では75歳以下が望ましいとされていますが、状況により異なります。まずは医師にご相談ください。
腎移植前の評価検査
腎移植についてレシピエント・生体ドナーともに、移植と提供についてそのリスクも含め十分に説明を行います。理解の上納得し、生体ドナー候補者が提供を申し出られた後に、検査を開始します。
検査の内容は、腎臓機能の評価と組織適合性検査、一般的な全身状態の評価(悪性腫瘍や感染症などがないかどうかも含む)があります。過去にかかられた疾患の経過によっては、適宜評価のための追加検査を行います。また、適切な判断力を持って十分に移植及び提供について理解していることを第三者(阪大病院では精神科医師にお願いしています)に確認してもらいます。
組織適合性検査
- HLAタイピング・クロスマッチ検査
(指定された日の朝8時30分に泌尿器科外来に来院し、採血を行う。患者と生体ドナー候補者は同日に来院する必要あり。)
全身状態の評価
- 血液検査(腎機能、肝機能、膵臓機能などの一般的な血液検査、腫瘍マーカー、HIVを含む感染症の検査など)
- 便検査(便の潜血反応)
- 喀痰検査(結核菌の有無)
- 胸部レントゲン
- 心電図
- 胸腹部CT
- 心エコー(必要時、循環器内科受診)
- 上部消化管内視鏡
- 下部消化管内視鏡(年齢や既往歴、便の潜血反応の結果による)
- 耳鼻科・眼科
- 糖負荷検査(糖尿病の有無)
- 膀胱造影検査(膀胱の機能検査、尿管の逆流がないかを検査する)
- 呼吸機能検査
- 麻酔科受診
- 精神科受診
上記の検査や受診以外にも、病歴や検査結果によってはさらに他の受診や検査を必要とすることもあります。
組織適合性検査(HLAタイピング・クロスマッチ検査)について
HLAとは、Human Leukocyte Antigen(ヒト白血球型)の略で、白血球の表面にある自己と非自己を認識するシステムを構成する膜抗原です。Class Ⅰ(A、B、各2つ)と、Class Ⅱ(DR2つ)があります。
HLAは白血球の型で、両親から遺伝的に受け継いでいます。数多くのタイプがありますが、特に移植に関与するのはHLA-A(27種類)、HLA-B(57種類)、HLA-DR(21種類)で、1人の人がそれぞれについて2つずつ、合計6種類のタイプを持っています。
たとえば、両親がHLAのA・B・DRのひとつずつを1組として合計で2組のHLAを持っていると、その子供は父親の1組と母親の1組を受け継ぐため4通りの組み合わせができます。つまり、兄弟姉妹の場合、HLAのA、B各1つずつとDRの1つの合う確率が50%、すべて合う確率が25%、まったく合わない確率が25%あります。これが他人になると1万人に1人、日本人では50人から千人に1人しかいないといわれています。
直接交差試験 (Direct crossmatch)
直接交差試験とは、ドナーとレシピエントの血液をそれぞれ遠心分離し、ドナーのリンパ球とレシピエントの血清を混和したあと、リンパ球の障害の程度を測定する試験です。血清法およびAHG-LCT法で陽性の場合、超急性拒絶反応の危険性があるので、移植はできません。FCM法のみが陽性の場合、移植後1週間程度で発症する促進型拒絶反応の危険が高いため、血液型不適合移植に準じた処置が必要となります。
血液型不適合移植について
血液型(赤血球の型)には、A・B・O・AB型の4つの型があります。血液型が同じことを血液型一致、血液型が同じではなくても免疫学的に問題ないとされている型を血液型不一致、血液型が同じではなく移植を行うには免疫学的に何らかの処置が必要とされる型を血液型不適合といいます。血液型一致と血液型不一致の移植を、血液型適合移植と言います。
血液型不適合移植の場合、特殊な準備が必要となります。抗血液型抗体(移植腎を異物とみなし、急性期に強い拒絶反応を起こす抗体)を除去するために、移植手術の約2週間前にリツキサンという薬剤の点滴を行うか、脾臓を摘出します。脾臓には、免疫機能・造血機能・古くなった血球の破壊機能・血液の貯蔵機能があります。リツキサンには、新たな免疫機能や造血機能を抑制し血液型の違う抗体を、新たに作らないようにする作用があります。脾臓摘出の手術は、脾臓の状態にもよりますが腹腔鏡手術で行います。また、リツキサン投与または脾臓摘出後、抗体を減らすため移植前に通常2~4回の血漿交換を行い、抗体価が下がったことを確認して移植を行います。血漿交換とは、抗体をろ過して除去する方法で血液透析を行う際に一緒に行います。
移植後は、通常の免疫抑制療法と同様です。近年では、免疫抑制薬の進歩と合併症に対する治療法の確立により血液型不適合移植も安心して受けていただけるようになり、血液型適合移植の成績とほぼ同等です。
評価検査・移植手術までのながれ
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外来受診・移植説明
(パンフレット・同意書等を持ち帰り検討してもらう)
初回説明時、ご家族が同席していない場合は再度外来にて説明
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(移植の意思を確認後)一般血液検査・胸部レントゲン・心電図
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HLAタイピング・クロスマッチ検査の申し込み
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外来受診・HLAタイピング・クロスマッチ検査
(レシピエント・ドナー候補一緒に採血)
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阪大病院以外で移植する場合、これ以降の検査はその病院で行う
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外来検査・腹部単純CT
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外来検査・腹部単純CT検査結果説明
便検査・喀痰検査提出心エコー・胃カメラの予約
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耳鼻科・眼科・腎臓内科受診
その他、追加検査・追加受診があれば随時行う
糖負荷検査・VCG検査
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精神科受診
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呼吸機能検査・麻酔科受診
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入院
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腎移植手術
検査の日程
移植の評価検査は、基本的に外来で行っていきます。前のページに示したように、何回かに分けて外来で検査や受診を行います。検査結果で異常が見つかれば、さらに検査や他科受診などを行う必要が出てきます。
初回外来受診から、移植手術までは生体ドナーの検査の進行状況にもよりますが、約2~3ヶ月程度かかります。検査結果で異常が見つかったり、追加精査が必要になったりした場合には、それ以上かかる場合もあります。私たちのポリシーとして、レシピエントや生体ドナーが安全に手術を行えるように、十分な時間をかけて検査を行っています。