腎移植

腎移植とは

腎移植の歴史

最初に臓器移植が動物に対して行われたのは、19世紀に入ってからでした。その後、1936年にロシアではじめて人への腎移植が行われたと報告されています。その後、1956年に日本でもはじめて腎移植が行われました。しかし、まだこの頃は、透析療法や免疫抑制療法の理論が確立されておらず、長期生着(腎臓が機能していること)には至りませんでした。

1981年には、抗拒絶剤(免疫抑制薬)としてシクロスポリンが人の移植に使用できるようになり、続いてタクロリムス等の免疫抑制薬が、拒絶反応に対する治療薬として開発されました。それ以来、日本でも多くの方が腎移植を受け2006年には年間1,000例を超えるほど定着した医療になってきました。現在は年間約1,600件の腎移植が行われています。

また、日本の特徴としては献腎移植(脳死又は心停止した方から腎臓提供されるもの)が少ないため、年間1,600例のうち9割が生体腎移植(親族から片方の腎臓を提供されるもの)です。近年では、移植技術の向上に伴い、血液型が違うレシピエントとドナー間での移植や夫婦間移植なども可能になっています。

腎移植を受けられる患者さんは、その大半が腎不全となり透析を導入された方ですが、最近ではクレアチニン値が4.0~7.0mg/dL台でまだ透析を導入されていない方も移植を希望し、未透析状態で移植を行う例も増えています。

腎移植について

腎臓を障害され腎不全になった患者さんは、週に何回かの血液透析や、1日に1~4回程度の腹膜透析を継続して行わなくてはなりません。

腎移植で期待できること

移植は透析治療から解放されることが、一番大きなメリットです。食事制限が緩和され、水分制限がなくなります。透析に日常生活の多くの時間が取られ社会的制約があった状況から、健常者と同様な生活が可能となります。

女性では、妊娠・出産の際、内服薬の影響で催奇形性(胎児の異常)の可能性は一般の方に比べると高率となりますが、腎移植後約1年目から妊娠・出産が可能となります。(クレアチニンの値や合併症によっては、妊娠が難しい場合もあります。妊娠をご希望される方は必ず妊娠前に医師にご相談ください。)

子供では、腎不全のままでは成長発達に遅れを生じる場合もありますが、腎移植によって成長発達が期待できるようになります。

そして、透析治療を長期間行うことによって起こってくる動脈硬化、骨障害、アミロイド症、心不全などの合併症の進行を、腎移植によって止めることができます。また、シャント障害や腹膜透析時に問題になる硬化性腹膜炎に悩まされることもありません。さらに、尿毒症の状態が解除されることにより、体が軽くなったり、頭がすっきりし、痒みもなくなったりします。また味覚障害が改善されることもあります。

移植は、これまで受けてきた食事療法や透析療法から解放され、よりよい生活が送れることを目的に行われます。そのため、腎移植は生活の質(QOL)を上げるための医療といわれています。

ただし私たちはQOLを上げるためだけに腎移植をおすすめする訳ではありません。透析治療では体内の水分コントロールやリンのコントロールが困難であり、前述の心不全のような心血管系合併症の発症率が上昇してしまいます。これらを腎移植により軽減できる可能性があります。

腎臓移植のデメリット

腎移植後は、免疫抑制薬というお薬を腎臓が機能している限り内服する必要があります。その免疫抑制剤の副作用で悩まされることもあります。また、免疫抑制剤は体の抵抗力を低下させるお薬ですので、感染症や悪性腫瘍の発生頻度が高くなる可能性があります。

拒絶反応と感染症

他人の腎臓を体の中に移植するということは、移植後に薬も飲まないで全く健康体に戻るわけではありません。

人間には免疫能力があります。これは自分の体にないものが体の中に入ってくると、攻撃して自分の体を守る働きのことです。例えばウイルスや細菌等が体内に入ってくると、免疫作用でそれらを攻撃するので自然に治ります。このように免疫とは人間の体を守る重要な働きなのですが、移植にとってはこのことが大きな問題となります。

移植された新しい臓器は自分のものではないので、免疫作用が働いて新しい臓器をやっつけようとします。これを拒絶反応といいます。新しい臓器が攻撃され破壊されないように、免疫作用を抑えなければいけません。そのため免疫を抑える薬(免疫抑制薬)を一生飲み続ける必要があります。

免疫抑制薬は、免疫作用を抑えることで新しい臓器の破壊を防ぎます。しかし、ウイルスや細菌、真菌(カビ)等に対しても、攻撃する働きを弱め感染症に至ることにもなります。免疫抑制(感染症のリスク)と拒絶反応のバランスを保つことが重要となります。

移植手術を受ける前の問題は、患者さんの体の状態が、移植のような大きな手術に耐えることができるかどうかということです。そのため、移植前には手術に耐えられるかどうか、様々な検査をします。また、移植後免疫反応を抑えるため、感染症があれば大きな問題となります。手術前に感染症がある状態で移植手術を行い、免疫抑制薬を使うと、全身に広がり、命を落とすことになります。そのため、移植前には継続的に検査を行って、感染症のない状態で移植を受ける必要があります。

腎移植の成績

現在の医療では残念ながら腎移植は、完全な治療ではありません。そのため、移植した腎臓が必ずだめになる時期がやってきます。移植した後に生存している割合を「生存率」、移植された腎臓が機能している割合を「生着率」と言います。移植後の生存率と生着率を下記のグラフでお示しします。

「移植」vol49, 2004. および中外製薬HPより引用

腎移植後生存率

生体腎移植
腎移植後生存率 生体腎移植
生体腎移植 1年 5年 10年 15年
1989年以前 93.0% 86.7% 81.0% 76.5%
1990-1999年 97.3% 94.9% 91.3% 87.5%
2000-2005年 98.6% 96.6% 93.8% -
2006-2012年 98.8% 96.2% - -
献腎移植
腎移植後生存率 献腎移植
献腎移植 1年 5年 10年 15年
1956-1989年 87.0% 80.1% 74.6% 69.7%
1990-1999年 94.7% 88.9% 82.6% 74.1%
2000-2005年 95.5% 88.9% 80.2% -
2006-2012年 97.5% 91.2% - -

腎移植後生着率

生体腎移植
腎移植後生着率 生体腎移植
生体腎移植 1年 5年 10年 15年
1989年以前 85.3% 67.6% 51.1% 40.1%
1990-1999年 93.4% 83.4% 70.4% 60.3%
2000-2005年 97.2% 92.3% 84.9% -
2006-2012年 97.8% 92.8% - -
献腎移植
腎移植後生着率 献腎移植
献腎移植 1年 5年 10年 15年
1989年以前 68.1% 48.6% 35.3% 26.5%
1990-1999年 84.5% 68.7% 55.7% 44.3%
2000-2005年 89.7% 79.2% 66.3% -
2006-2012年 93.9% 83.9% - -
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